Chapter 2

 高台の窓から漏れる明りに骸骨の群れが照らし出された。空洞な目を高台に向け、惹かれるように門の中へとなだれ込んでくる。
 思いもしない光景に衝撃を受け兵士達はおもわず立ちすくむ。
「弓隊!位置につけ!」
 隊長の怒号が響き、止まっていた兵士達の思考の歯車が激しい速度で回りだす。素早い動きで窓際に位置を取り、矢先が次々に侵入者に対して向けられる。
「撃てー!」
 一斉に飛ぶ力強い矢の塊が骸骨の群れを打ち砕いた。
「敵襲!全員に知らせろ!槍兵はすべての入り口を封鎖、外には出るな!」
 ブラウンとシアが部屋を飛び出してきた。外を見たシアは骸骨達の後ろにそびえたつ黒々とした幾つかの影に固まる。
「ネクロマンサー……」
 彼の呟きを聞いた周囲の兵士達がギョッとシアの方を振り向く。
 前に盾をもつ骸骨が立ち、激しく降りかかる弓矢の攻撃を耐えつつ前進してくる。骸骨達と窓との間合いが狭ばまると、弓兵はさっと武器を槍に持ち替えながら引く。窓から飛び込んでくる骸骨達とそれを待ち受ける兵士たち、その場の者全員が激しく動き出す。
 突然、力のこもった雄叫びがその場を揺るがした。指揮を取っていた隊長は厳しい表情で新たに姿を現した巨人の群れを見やる。オーガ達であった。彼らは棍棒を振りかぶり、頑丈な扉をちぎるように引き裂く。扉が破壊されると同時にオーガと骸骨の群れが一気に高台の中へとなだれ込む。一撃が致命傷となるオーガの迫力のある打撃に兵士達は怯み圧倒される。
 そんな中、一人の男がオーガの群れに飛び込んだ。迷いの無い目で前方を見据え、シアは突進していく。その通った跡からは敵を焦がす炎が左右に散る。目標の敵を剣で突き倒し、シアは吼えた。爆発時のように衝撃が広がりオーガ達に襲い掛かる。その隙に隊形を建て直したブラウン達槍兵は槍の矛先を並べた。
「突進!」
 高台の誇る鋭く長い牙が、今巨人に剥かれる。揃えられた槍先はオーガに棍棒を振り落とす隙を与えずに圧力をかけていく。
 攻撃に転じた兵士達の動きはオーガ達に的をしぼる余裕を与えない。戦いの真只中を駆け巡っていたブラウンは、一瞬止まると斧を構え直して集中した。オーガが彼に向かって棍棒を振り上げたその瞬間ブラウンは複数の分身を発し、それらと共に一斉にオーガに突きを繰りだす。オーガが驚きに目を見張った次の瞬間、その巨体は複数の突きを同時に受け後ろへとよろめき沈んでいった。
ふと、背後に冷たさを感じ一人の兵士が振り返った。マントを羽織った巨大な骸骨が兵士を見下ろしている。目の代わりに収まっている赤い光が兵士の目を捉えた。
「うわああああ!」
 兵士達の連携が急に崩れ、何人かが狂ったように味方に向かって襲いかかる。
「やつは精神を狂わす!気をしっかりもて!」
 シアが必死に叫ぶ。だが兵士達が動揺している今ネクロマンサーに対抗する力はない。急いでまだ正気を保っている味方をまとめ後退させるとブラウンと共に後方で敵を食い止めにかかる。
「高台の勤務は退屈だな?え?」
 シアは隣のブラウンに視線を向けずに叫んだ。ブラウンは乾いた笑いを飛ばす。
「だろ?」
 シアの見る先には列をなして現れる闇の魔術師達の姿があった。
「ああ、あまりに退屈で死にそうだ」
 魔術師達の放った炎の雨が滝のごとくシア達に降り注ぐ。





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