Chapter 3 数時間後、フュリとシュタインは洞窟の外に立っていた。 「随分とデカイ洞窟だな」 入り口の高さは2mほどだったが中に入ると高さ5m程の空洞になっていた。 ランプを灯して二人は中へと進んで行く。二人の前にひらけた地底の空間が現れた。 「これはすごいな」 シュタインが感嘆の声を上げる。開けた空洞は地底の別世界だった。その真ん中にはぽつりと大きな池がある。 「いま、影が見えなかった?」 フュリが立ち止まって目を凝らす。 「誰かいるのか?」 シュタインは池の方へと進んだ。 「危ない!」 カンと金属音をたてて矢が盾に弾かれる。フュリとシュタインは慌てて岩陰に隠れた。 「なんだ?」 「原始人の住処なんじゃないの?」 「あまり好意的でないな」 岩陰からひょいと顔を覗かせたシュタインをめがけて次々に矢が飛んでくる。間一髪でシュタインは顔を引っ込めた。矢が彼の頬を掠って過ぎ去る。 「あぶねー。なんか今日の俺の顔やけに危険に巻き込まれるな」 「その梳かしてない髪のせいじゃないの?」 「……関係あるのか?」 暢気に話している二人だがこのままでは身動きがとれない。 「お前の新技とやらであいつ等に攻撃できないのか?」 「あんなに遠い敵は無理よ」 しばらく隠れていたがジッとしているのが苦手なこの二人、ほぼ同時に岩陰から飛び出た。いっせいに飛んでくる矢をフュリは素早く横へステップして避ける。シュタインは盾で矢を受けるが受けきれなかった矢が足に刺ささる。二人は急いでその場を離れ奥へと逃れていく。 「足大丈夫?」 「このぐらい平気だ」 矢尻を残さぬように引き抜くとシュタインは刺さった箇所を布で止血する。そんな二人の背後から擦れるような音がした。飛びのいた二人のいた場所に大きな針が突き刺さる。 「大サソリ!」 熊の倍ぐらいの大きさのサソリが信じられない速度で迫ってくる。 「うおおおお!」 雄叫びを上げながらシュタインが突っ込む。突き出される針を避けサソリの頭に剣を突き入れる。怒り狂ったサソリの牙を逃れシュタインが後退する。もうシュタインしかその頭に入ってないサソリの脇にフュリは廻り込んだ。サソリの腹に向かって突き出された槍が甲羅を突き破る。緑の体液を漏らしながらサソリは後ずさりに退却していった。 ふと元来た方向から悲鳴のような音が聞こえた気がしてシュタインが振り返った。 「これ!」 フュリの叫び声に視線を戻すとフュリの手に鞄がある。 「名札がついてる!これテインさんのよ!」 その鞄は使い込まれた皮製の鞄で確かにテインと書かれた名札がついていた。 (殺気!) 二人が振り返ると複数のサソリの影が忍び寄ってきていた。 「フュリ!おまえが叫び声なんてあげるから!」 「あなただって戦ってた時叫んでたじゃない!」 二人は奥へと通じる道へ飛び込む。 「ん?追ってこないぞ」 何かを恐れるようにサソリが道の入り口で止まっている。 「この奥嫌な感じしない?」 フュリは先の方を窺った。 「ああ、いかにもやばそうな感じだな。こういう時は……」 二人は顔を見合わせた。 「「前進あるのみ!」」 二人は奥の方へと突進していった。 奥へ行くとまた広い空洞に行き着いた。 「この鞄があそこに落ちてたってことはテインさんサソリに襲われたのかしら」 「さあな、もっと手がかりを探してみようぜ」 二人は広場を漁る。 「何かあったわ!」 フュリがシュタインに叫ぶ、その手には本のようなものが握られていた。 「うお!ほんとか!?」 シュタインが叫び返す。懲りない二人である。 ずしりと重たい足音が方々から響いてきた。 「な、何この音」 「オーガだ……」 のそりとオーガ達が現れる。身長およそ2.5mの巨体が二人を取り囲む。 オーガは古代から存在する巨人の血を引いた一族だ。彼らは凶暴で特に雄は人を喰うことを好む。肌は墨のように黒く大きな鉄製の棍棒を武器として扱う。 「獲物だ……」 「肉だ……」 目の前のご馳走にオーガ達が興奮する。二人はじりじりと出口に向かっていく。声をあげてオーガが巨大な鉄棒を振り上げる。激しい衝撃がシュタインの盾を襲った。 「う……」 衝撃で、盾を支えていた左腕に激しい痛みが走る。潰れるようにシュタインが地面に崩れ落ちる。 シュタインを一撃で盾ごと殴り倒したオーガに一瞬息を飲んだフュリだが、すぐに槍でオーガを突きにかかる。それをかわすとオーガは槍を踏みつけた。槍を握り締めていたフュリも膝から地面に落ちる。そんなフュリを別のオーガが踏みつけ、地面に押さえつけた。空気が肺から締め出されフュリは空気を求めて喘ぐ。 「生の肉だ」 大きく広がった手がフュリの頭を鷲づかみにしようと近づいてくる。 (冗談じゃない!) 体の自由が効かぬ中フュリは頭の中で叫ぶ。 ふと、オーガが手を止め、出口の方へと視線を向けた。 暗闇の中から大きな影が伸びる。 (まだいるの!?) 現れたのはしかし人だった。 「あ、兄貴……」 シュタインが呻く。
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