Chapter 2

 フュリとシュタイン、この二人は冒険者である。冒険者達は、もっぱら短期で任務を遂行するクエストを引き受け、その報酬で暮らしを立てている。二人は公園を後にし、クエストを求めに人の集まる噴水の広場に向かう。
「おい、フュリ」
 歩きながらシュタインが切り出した。
「何?」
「ロマ族のやつと行動してるんだって?」
 フュリはちらりと隣のシュタインに視線をやる。
「一昨日に一緒にクエストをやっただけよ。彼女はアランのところに居候しているわ」
 アランは彼女の幼馴染の剣士だ。フュリと彼は一昨日ロマ族のチロと出会った。あまり世間のことを知らない様子のチロが心配になり、彼女にアランの家の空き部屋に住まないかと提案したのだった。
「大丈夫か?」
 シュタインの問いにフュリが立ち止まり、シュタインも歩みを止める。
「何がいいたいの?」
 フュリの言葉に怒気がじんわりと滲む。
「ロマ族のやつらは人や死人を操って人を襲うって聞いた。中には悪魔と組んでいる者さえいるってな」
「確かにそういうロマ族もいることは聞いたことがあるわ」
 フュリの青い目がスタインの目を捉える。
「でも私は父や母から、ロマ族の多くは動物との触れ合いが好きな優しい人達だと教わってきた。チロは良い人よ」
 フュリの強い意志が宿った目に、シュタインは一瞬吸い込まれそうな錯覚を覚える。目をそらして彼は呟いた。
「わかった。安心したよ」
 二人の間の空気が居心地悪そうにもじもじと揺らぐ。フュリはわかっていた。シュタインはただ彼女とアランのことが心配なのだ。しかし、ロマの者というだけでチロが嫌な思いをすることにはなって欲しくない。
 それから会話をすることもなく二人は噴水の広場に到達した。

「おい、あの木の下にいる人」
 シュタインが示した先を見るとおどおどとした様子の女性が広場の様子を伺っている。
「あの、何かお困り事ですか?」
 彼女に歩み寄りフュリが話しかけた。
「あ、あの、冒険者の方にクエストを頼むにはどうしたらいいのでしょう?」
「連合会に申し込めば難易度を決めて冒険者を募集してくれる」
 シュタインが答える。
「そんな、夫が洞窟へ探検に行って以来音沙汰無くて一刻を争うのです!」
 女性はミカと名乗った。彼女の夫テインは探検家で、この間北の洞窟に探検に行ったきり戻らないのだと言う。
 フュリとシュタインが顔を見合わせる。二人の想いは同じだった。この女性を助けたい。そしてこの冒険の機会を逃したくない。
「おい、アランも誘って洞窟に救助に行こうぜ」
「無理よ、アランは一昨日の怪我がまだ治ってない」
 フュリは包帯を体に巻いたアランの姿を思い出す。
「困ったな、お前はアランと一緒でないとクエストができないんだろ?」
「私だってもう子供じゃないわよ。二人で行こう」
 二人のやりとりに女性がエッと反応する。
「お二人で行かれるのですか?」
「大丈夫、俺達はこう見えても経験豊富なんだ」
自信ありげなフュリとシュタインの様子を見て少し頼もしく思った女性だった。しかし、彼女は二人について重要なことを知らない。この二人は共にその無鉄砲さで知られていた。
「私達が向かいますが必ず見つけられるとも限りませんし連合会にも申請しておいてください」
 フュリは申請の段取りを女性に説明する。洞窟の場所と女性の連絡先を聞くと二人は準備を整えに戻った。




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