Chapter 1

「ウオオ〜!」
からっと乾いた空気に掛け声が響く。公園の拓けた芝生の上で、一人の剣士が訓練をしていた。寝癖の付いた栗色の髪が彼の頭の上で暴れ狂っている。それに劣らぬ激しい動きで彼は剣を躍らせていた。一連の動きを終えると拭くというよりは散らす勢いで汗を布で拭っていく。
「相変わらずシュタインの訓練は豪快ね」
 小柄な少女が近づいて声をかけてきた。
「お?フュリじゃないか。槍を変えたのか?」
 シュタインと呼ばれた剣士はフュリの担いでいる真新しい長い槍に目を向ける。その見た目の通りロングスピアと呼ばれているリーチの長い槍だ。
「臨時収入があって新しい槍を買ったの。もっと威力のあるのが欲しくて。どう?」
 フュリは槍を回してみせる。
「まるで槍に担がれたランサーだな」
 2m近いその槍は悠に少女の身長を超えている。印象通りの感想を述べるシュタインに対して怒った少女が突きを繰り出す。
「おっと」
 身軽にかわしてシュタインはにやりと笑う。
「それだけデカイといつもの素早い突きも出せないのか?」
 その時、糸の弾けたような音がシュタインの背後で響く。反応して振り向いたシュタインの顔面に、棒切れが飛び込む。鈍い音がして、鼻を押えながらシュタインがうずくまる。そんな彼をからかうように空中に弓がぷかぷかと浮いていた。
「新技、弓の遠隔操作よ、参ったか!」
 無礼なコメントを述べたシュタインを成敗し、フュリは胸を張る。
 なんの騒ぎかと顔を上げた幼い子供達が目にしたのは、不似合な長い槍を担いでそっくり返っている少女の姿だった。





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